将棋道場に通い始めた時は、
私は一番下手っぴで、
同世代の子は6、7人しかいませんでしたが、
そのなかで、将棋道場に行くといつもいるのは
高塚君と肖君の二人でした。

他の子は思い出したかのように
将棋を指しに来ていましたが、
次第に姿を見せなくなっていました。

学年が1つ上だった
肖君はその道場に通う数人の男の子のなかで一番強く、
6年生の当時、彼は道場では1級でした。

今から考えると台湾人だったのでしょうが、
私は台湾の人と縁があるようです。
目がクリクリしていて、
私のような色白で、
当時はクラスで身長が前から2、3番目に低くて
オズオズとしているような子供とは違って、
都会に住んでいる
精魂逞しい人間といったところで
話は面白く、運動神経も良く、
カッコ良くて私の憧れでした。

それで、私は肖君の観察をするようになりました。
彼は左利きなので、
私も駒を持つ手は左にしてみたり、
大げさに手を振りながら、
背を反る風なところまで
普段の仕草も知らず知らずのうちに
マネするようになっていました。

マネをすると
将棋も強くなった気がするから不思議です。
けれども、将棋はマネはしませんでした。
なぜなら同じ戦法を使うと面白くないからです。

ところが、そんな日にも
終わりが訪れました。

彼には左手で自分の鼻を軽くしごいてから
駒を動かす癖があったのですが、
当然のことながら、
私もそれが自然に身につくようになっていた
ある日の昼下がりのことです。

いつものように将棋を指していると、
彼は隣にいた坊主頭の中学生に
「この前、将棋指している時に鼻を触ったら、
鼻水がたくさん出てきて……」
と笑っているではありませんか。
私は漸く、人に優れている面があっても
マネをしてはいけないところも
あることに気づいたのです。